
なぜスプリント能力が重要なのか
サッカー、バスケットボール、ハンドボール——チームスポーツの試合中、選手は繰り返しスプリントを求められます。研究によれば、サッカーでは1試合に平均7〜61回、バスケットボールでは18〜105回、ハンドボールでは19〜25回ものスプリントが発生しています。
さらに重要なのは「繰り返す能力」です。最初のスプリントで得点できなくても、すぐに次のスプリントで勝機をつかめるか——これが反復スプリント能力(RSA)です。一方、単純に速く走り切る力が直線スプリント能力(LSA)です。この2つをどう伸ばすかが、チームスポーツのS&Cにおける核心的な問いのひとつです。

HIITとSSG——2つのアプローチとは
高強度インターバルトレーニング(HIIT)
HIITは、有酸素代謝から無酸素代謝へ切り替わる閾値(無酸素性作業閾値)以上の強度で行う、運動と休息を交互に繰り返すトレーニングです。運動時間は10秒〜5分、休息時間は10秒〜4分と幅広く、その組み合わせによって異なる代謝適応を引き出せます。
たとえば「15秒全力走+15秒休息」を繰り返すHIITでは、短い休息がPCrの完全回復を妨げ、結果的にPCr再合成能力そのものを高める刺激になります。一方「30秒全力+2分休息」では解糖系への負荷が増大します。このように、プロトコル設計によって狙う適応を変えられるのがHIITの強みです。
スモールサイドゲーム(SSG)
SSGは、通常の試合よりも少ない人数・狭いコートで行うゲーム形式のトレーニングです。バスケットボールなら2対2〜4対4、サッカーなら1対1〜9対9で実施されます。強度は最大心拍数(HRmax)の80〜90%に達することもあり、体力面だけでなく技術・戦術の向上も同時に狙えるのが特徴です。フィールドサイズや人数を変えることで強度を調整できます。

メタアナリシスが示した結論
7件のランダム化比較試験(サッカー4件・バスケットボール2件・ハンドボール1件、対象年齢14〜17歳、合計147名)を統合したメタアナリシスの結果は、現場での判断に直結する知見をもたらしています。

HIITは直線スプリント能力の向上においてSSGより優れている。RSAへの効果は両者で統計的な差はないが、効果量ではHIITがSSGの約2倍を示している。
なぜHIITがLSAで優位なのか
この結果には、採用されたプロトコルが深く関わっています。メタアナリシスに含まれた研究の多くが「95%VIFT(30-15間欠的フィットネステストの最終速度)での15秒走+15秒休息」というHIITプロトコルを使用していました。これはSSGよりもスプリントに適した高強度刺激を継続的に与えられる設計です。
加えて、HIITにおける高強度の反復刺激は神経系の発達を促します。運動ニューロンの時間的活性化の変化、高閾値の速筋運動単位の優先的動員、神経伝導速度の増加——これらの神経生理学的適応が、スプリントパフォーマンス向上のメカニズムとして機能すると考えられています。
一方SSGでは、試合中の最大スプリント速度はゲーム状況に依存するため、スプリント能力に必要な最大強度の刺激を安定して与えることが難しい側面があります。
RSAへの効果——PCrと解糖系のメカニズム
RSAへの効果がHIITとSSGで統計的に同等だった理由のひとつとして、有酸素性能力の類似した改善が挙げられます。有酸素性能力はPCrの再合成速度に影響するため、両者が類似した有酸素適応をもたらすことで、RSAへの効果も近似したと考えられます。
また、15秒のインターバルという設定が重要な役割を果たしています。PCrが50%まで回復するのに20秒以上かかるとされており、15秒の休息ではPCrが十分に回復しません。この不完全な回復が解糖系エネルギーシステムへの刺激となり、PCr再合成の促進につながります。さらに、血液・筋のH⁺緩衝能の向上も、RSA改善のメカニズムとして機能する可能性があります。
LP
LIME PERFORMANCEでの実践例
ライム・パフォーマンスでは、競技フェーズと選手のニーズに応じてHIITとSSGを使い分けています。
- オフシーズン・一般体力構築期:HIITを中心に設計。15秒走(90〜95%VIFT)+15秒休息のプロトコルでLSAの土台を構築します。有酸素性能力とスプリント速度を同時に高める時間効率の高いアプローチです。
- インシーズン・技術統合期:SSGの比率を高め、体力維持と技術・戦術の統合を図ります。過度な疲労蓄積を避けながら競技特異的な刺激を継続できます。
- 両者を組み合わせる週のデザイン例(週2回の場合):1回目はHIIT(スプリント強化)、2回目はSSG(技術・戦術統合)という構成で、LSAとRSAの両方にアプローチします。
※ 思春期アスリートの場合、成長フェーズ(最大身長発育速度前後)に応じた負荷管理が特に重要です。発育速度のピーク前後はスピード・有酸素性能力ともに適応が最大化しやすい時期であり、この窓を逃さない計画的なプログラム設計が求められます。
現場での使い分け指針
HIITを選ぶべき状況

SSGを選ぶべき状況

注意事項・研究の限界
本メタアナリシスに含まれる研究の対象は男性が大多数(147名中女性16名)であり、女性アスリートへの一般化には注意が必要です。
対象スポーツはサッカー・バスケットボール・ハンドボールに限られており、他競技への完全な適用には追加検証が必要です。
RSAの評価方法(スプリント距離、試行回数)が研究間で統一されていない点も、解釈の際に考慮する必要があります。
HIITにおいてスプリントパフォーマンスを向上させるための最小必要強度はまだ確定されていません。
まとめ:エビデンスが示す実践の方向性
HIITとSSGはどちらも思春期チームスポーツアスリートのスプリント能力を向上させます。直線スプリント(LSA)の改善においてはHIITが優位であり、反復スプリント(RSA)に対しては両者が統計的に同等の効果をもたらします。
HIITはLSAとRSA向上のための万能策ではないかもしれませんが、有酸素性能力とスプリントパフォーマンスの両方を高め、トレーニング効率を向上させる強力な手段です。一方SSGは、体力向上に加えて技術・戦術の統合という独自の価値を持っています。
重要なのは「どちらが優れているか」ではなく、「競技フェーズ・目的・選手の特性に応じてどう使い分けるか」です。そのための根拠をエビデンスが提供しています。
参考文献
Zhang ZY, Ji HS, He JX, Huang LJ, Ding SC, Sun J, Li DY. A Meta-analysis of the Effects of High-Intensity Interval Training and Small-Sided Games on Sprint Performance in Adolescents. Strength and Conditioning Journal, Vol.45, No.5, pp.587-597. NSCA JAPAN訳:Volume 33, Number 5, pp.50-60, June 2026.

