タンパク質の摂取は、脳震盪後の睡眠障害を軽減する?

タンパク質の摂取は、脳震盪後の睡眠障害を軽減する?

キーワード:BCAA、外傷性脳損傷(TBI)、不眠症状

  スポーツにおいて、脳震盪はよく起こりうるスポーツ外傷の1つです。特にサッカーやラグビー、アメリカンフットボール、バスケットボールなどのコンタクトスポーツやスキーなど頭部から転倒しやすいスポーツでは、相手の身体や物が頭部にぶつかって衝撃を受けてしまうことが多いと思います。

脳震盪が起きた後の症状は、眼球機能やバランス機能の障害、不眠などの睡眠障害がでることがあります。そのため、競技復帰に向けて機能障害を改善することと、段階的に競技レベルまで戻すリハビリが必要となってきます。また、脳震盪は脳が損傷していることから、修復するために栄養面からのアプローチも大切になってきます。

 そこで、Elliott, Jonathan E., et al.(2022)「外傷性脳損傷を受けた退役軍人の睡眠障害の改善策」の文献を参考にして、脳震盪後の睡眠障害に対する栄養補給について検討したいと思います。

 

(Evidence)

外傷性脳損傷(TBI )後の睡眠障害の有病率は50~70%と高く、TBI後の症状を強めることと関連しています。そこで、TBIを受けた退役軍人に対して睡眠障害の改善と予防を目的に無作為化二重盲検プラセボ対照試験を実施しました。

対象者は、2019年3月から2020年3月の間にスクリーニングされたTBIの退役軍人26名です。方法は2週間のベースライン期間後に、21日間BCAAもしくは2つのプラセボ(微結晶セルロースもしくは米タンパク)を1日2回摂取しました。1回の摂取量はそれぞれ30gとし、介入前後のアウトカムは、毎日の睡眠日誌の記入、自己報告、アクチグラフ※1を用いました。自己報告の結果から、不眠症重症度指数(ISI)※2および睡眠衛星指数(SHI)※3より評価することとしています。

結果として、ISIはBCAA群と米タンパク群で改善しましたが、微結晶セルロース群は変化がありませんでした(図1)。SHIは3つとも変化がありませんでした。

BCAA群の介入前後アクチグラフの結果は、自己申告による不眠症の改善と一致していました(図2)。

総睡眠時間は、介入前後で変化はありませんでしたが、入眠潜時を約9分短縮させたことで、睡眠効率を約5%向上させました。これにより、起床時間が約18分短縮されました(図3)。

 結論、BCAAを食事で補給することは、TBIを受けた退役軍人の不眠症や睡眠障害を治療するために、有望な介入です。

※1 アクチグラフ:非利き腕に加速度センサーを用いて活動量を測定し、簡易的に睡眠・覚醒リズムを調べる

※2 不眠症重症度指数(ISI):睡眠障害のなかでも不眠に特化し,その主観的重症度を測定する

※3 睡眠衛星指数:質の良い睡眠を得るために推奨される行動・環境の調整技法の実践を評価する

 

(文献)

Elliott, Jonathan E., et al. (2022). Dietary Supplementation With Branched Chain Amino Acids to Improve Sleep in Veterans With Traumatic Brain Injury: A Randomized Double-Blind Placebo-Controlled Pilot and Feasibility Trial. Frontiers in Systems Neuroscience, 51.

 

 脳震盪は軽度の外傷性脳損傷のため、短期間で回復することが多いです。しかし、繰り返し脳震盪を起こしてしまうと、とても危険なため、機能改善と競技レベルまで戻すリハビリはとても重要です。今回の論文は、外傷性脳損傷後の睡眠障害の改善に着目していましたが、睡眠障害が起きる前に、対策として取り入れることも必要ではないかと思います。しかし、BCAAは食事から摂る必要がある必須アミノ酸であるため、肉や魚、大豆製品などタンパク質を多く含む食品に含まれていることから日常的に摂取できています。そのため、まずは食事を十分に摂ることが優先ですが、脳震盪による食欲低下などの症状がある場合は、BCAAの活用を検討してみてもいいかもしれません。

 私がこれまでサポートしてきた数名の選手も、脳震盪を起こした後は、機能改善と競技復帰までリハビリに数週間努めていました。その際、栄養面からは、睡眠障害や食欲の有無などの聞き取りを行っていました。食欲が低下している場合や食環境などによって十分な食事がとれていない場合は、必要な栄養素が十分に摂取できていない可能性があるため、BCAA等のサプリメントの摂取を促しています。

まとめ

 タンパク質(アミノ酸)のBCAAが、脳震盪後の不眠などの睡眠障害を軽減することに関与していることが考えられます。

脳震盪後の早期復帰のために、機能改善と競技レベルまで戻すリハビリを行いつつ、脳の修復と睡眠障害を予防するために、食事から栄養を摂りつつ、場合によってはサプリメントの活用も検討してみてはいかがでしょうか。