🏋️ Training Science
「筋力」と「瞬発力」を
同時に高める科学
コンプレックストレーニング徹底解説 ― 仕組み・効果・実践プログラムまで、LIME PERFORMANCEが現場知識でわかりやすく解説します。
📖 読了目安 10分🎯 対象:一般〜競技アスリート✍️ LIME PERFORMANCE
📋 この記事でわかること
- コンプレックストレーニングとは何か?
- なぜ効くのか?「活動後増強(PAP)」の仕組み
- 3つのやり方と使い分け
- 休息時間の科学的根拠
- こんな人にオススメ・向かない人
- LIME PERFORMANCEの実践プログラム例
- 安全に行うための注意点
01 — コンプレックストレーニングとは?
「筋力を鍛えたいけど、スポーツで使えるスピードや瞬発力も欲しい」という要望は、アスリートから一般の方まで非常に多く耳にします。通常、筋力トレーニングとパワートレーニング(プライオメトリクスなど)は別の日に分けて行うことが一般的ですが、それを同じセッション内で組み合わせるのが「コンプレックストレーニング」です。
具体的には、重いウエイトを使ったレジスタンスエクササイズを行い、その後すぐに同じ筋群を使ったプライオメトリクス(ジャンプや爆発的な動作)を行うという形式です。たとえば「バーベルスクワット → ボックスジャンプ」、「ベンチプレス → メディスンボールパス」のような組み合わせが典型的です。
🔑 一言で言うと
「重い負荷のトレーニング」で神経系を活性化し、直後に「爆発的な軽い動作」を行うことで、パワーが通常より高くなる現象を狙ったトレーニング手法です。1986年にソ連の指導者から発表され、今では世界中のプロチームや研究機関で実践・研究されています。
このトレーニングが注目される背景には、時間的な制約があります。特に大学・高校スポーツや、忙しい社会人アスリートは、ジムで使える時間が限られています。コンプレックストレーニングは1回のセッションで筋力とパワーの両方に刺激を与えられる「効率的なアプローチ」として、現場での需要が高まっています。
02 — なぜ効くのか?「PAP」の仕組み
コンプレックストレーニングの核心にあるのが、「活動後増強(PAP:Post-Activation Potentiation)」という生理学的現象です。難しい言葉ですが、仕組みはシンプルです。
🧪 PAPのしくみ
🏋️高強度
レジスタンス運動
→
⚡神経系が
活性化される
→
🔬筋のカルシウム
感受性が上昇
→
🚀爆発的な動作の
パワーが一時的に向上
重い重量を持ち上げた直後は、筋肉の中で「ミオシン調節軽鎖のリン酸化」という反応が起き、筋線維がカルシウムイオンに対してより敏感になります。また、脊椎レベルでも神経の興奮性が高まるため、同じ爆発的な動作を行っても、通常より強く・速く筋肉が収縮できる状態になります。
🧬筋レベルの変化
ミオシン軽鎖のリン酸化によりカルシウム感受性が増大。同じ神経信号でも、より大きな筋力が発揮できるようになる。
🧠神経系の活性化
脊椎のα運動ニューロンの興奮性が上昇。より多くの運動単位が動員され、素早い動作がより大きなパワーを生む。
⏱️一時的な現象
PAPは数分から最大12分程度続く。この「窓」の間に爆発的なエクササイズを行うことが重要。
重要なのは、このPAPは「筋力が高い人ほど恩恵を受けやすい」という点です。つまり、ある程度のトレーニング歴がある方が、より大きな効果を感じやすいトレーニングです。
03 — 3つのやり方と使い分け
「コンプレックストレーニング」と一口に言っても、現場では主に3つのやり方があります。それぞれの違いを理解することで、目的に合った選択ができます。
コンプレックス
トレーニング
高強度のレジスタンス運動を複数セット行った後に、プライオメトリクスを複数セット行う。例:スクワット3セット → ボックスジャンプ3セット。筋力とパワーを「ブロック」で組み合わせる形式。
コントラスト
トレーニング
重いエクササイズを1セット行うごとに、すぐ後に爆発的なエクササイズを1セット行う交互形式。例:スクワット1セット → CMJ1セット → スクワット1セット…。PAPを毎セット活用できる。
コンプレックス
(Javorek式)
休憩なしで複数のエクササイズを連続して行う。バーベルやダンベルを置かずにアップライトロウ→スナッチ→スクワットプレスなどをつなぐ。筋持久力と無酸素性持久力の向上が主な目的。
どれを選べばいい?
目的によって選択を変えましょう。瞬間的なパワー向上(垂直跳び・スプリントなど)を目指すならコントラストトレーニングが研究的にも現場でも実績があります。時間効率を重視するならコンプレックストレーニング(Javorek式)も有効です。タクティカル職(消防・警察・自衛隊など)では、特殊な器具(サンドバッグ・ホースなど)を使った職務特化型コンプレックスも効果的です。
04 — 休息時間の科学的根拠
コンプレックストレーニングで最もよく議論されるのが「レジスタンスエクササイズとプライオメトリクスの間の休息時間」です。これが短すぎると疲労が強くなりパフォーマンスが落ち、長すぎるとPAPの効果が消えてしまいます。
📊 研究が示す最適な休息時間
多くの研究で「3〜4分」が最適とされています。中には8〜12分後にピークパワーが最大になるとする研究もありますが、現実のトレーニング環境では非現実的です。現場では3〜4分以内で十分な効果が得られると考えてよいでしょう。特にトレーニング歴が豊富で筋力レベルの高いアスリートほど、疲労の回復が早いため短い休息でも効果を得やすいです。
また、休息時間を上手く活用するコツとして、「コアトレーニング」や「モビリティドリル」を休息中に挟む方法があります。これにより、トレーニング全体の時間を延ばさずに、動作改善や傷害予防の要素も同時に取り入れることができます。
05 — こんな人に向いている・向かない
- 競技スポーツをしていて「ジャンプ力・瞬発力・加速力」を上げたいアスリート
- レジスタンストレーニング歴が2年以上あり、ある程度の基礎筋力がある方
- 下半身の1RM(最大挙上重量)が体重の約1.8倍以上、上半身が体重の1.4倍以上
- バスケットボール・サッカー・ラグビー・陸上・バレーボールなど跳躍・疾走系スポーツ
- 消防・警察・自衛隊などのタクティカル職でパフォーマンス維持が必要な方
- 時間が限られており、筋力とパワーを効率よく鍛えたい方
- トレーニング初心者・運動習慣がない方(まず基礎筋力づくりが先決です)
- プライオメトリクスの技術・着地フォームが身についていない方
- 関節に痛みや怪我のある方(医師・専門家に相談を)
- スクワット時に体重の60%を5秒以内に5回できない方はまだ早い段階です
06 — LIME PERFORMANCEの実践プログラム例
🟢 LIME METHOD
安全・効果的・継続できる3ステップ導入法
LIME PERFORMANCEでは、いきなりコンプレックストレーニングを処方することはありません。段階的なアプローチで「身体の準備が整ってから」導入します。
- 1 動作スクリーニング(1〜2ヶ月):スクワット・ランジ・プッシュ・プルなど基本動作パターンの質と筋力を評価。着地テクニックの習得を優先します。
- 2 基礎筋力・プライオメトリクス準備期(2〜3ヶ月):基礎的なレジスタンストレーニングとプライオメトリクスを分けて実施。正しい着地フォームと関節の安定性を構築します。
- 3 コンプレックストレーニング導入期(オフシーズン〜プレシーズン):コンディショニング活動の負荷は1RMの85%以上、プライオメトリクスは適切な強度から段階的に漸進。必ずセット間に3〜4分の回復時間を確保します。
◼ 下半身パワー強化プログラム(中上級者向け)
下半身コントラストトレーニング 1日分 中上級者
バーベルバックスクワット
4セット × 3〜5レップ / 85%1RM
⟶
カウンタームーブメントジャンプ
4セット × 5〜6レップ / 自重 *3〜4分休息
ルーマニアンデッドリフト
3セット × 5レップ / 80%1RM
⟶
ボックスジャンプ
3セット × 5レップ / 自重 *3〜4分休息
片脚スプリットスクワット
3セット × 5レップ(各脚)/ 70%1RM
⟶
ジャンプランジ
3セット × 5レップ / 自重 *3〜4分休息
◼ 上半身パワー強化プログラム(中上級者向け)
上半身コントラストトレーニング 1日分 中上級者
バーベルベンチプレス
4セット × 3〜5レップ / 85%1RM
⟶
メディスンボールチェストパス
4セット × 6〜8レップ *3〜4分休息
インクラインダンベルプレス
3セット × 6レップ / 75%1RM
⟶
クラッピングプッシュアップ
3セット × 5レップ *3〜4分休息
07 — 安全に行うための注意点
⚠️ 注意:疲労との戦いを制する
コンプレックストレーニングは、適切なフォームが崩れた状態で行うと傷害リスクが高まります。重要なのは「疲労した状態でも質の高い動作を維持できる重量・強度」から始めることです。「もう少し重くしたい」という誘惑に勝ち、まずフォームの完成度を優先してください。
- プライオメトリクスは必ず着地フォームを習得してから導入する
- セット間の休息は最低でも3分確保する(省略しない)
- コンプレックストレーニングの頻度は週2回が推奨上限(回復期間48〜96時間)
- 毎セット後に動作の質を確認し、崩れたら重量・強度を落とす
- 導入はオフシーズン〜プレシーズンが最適。シーズン中は維持目的で使用する
- 10〜15秒未満の極端に短い休息は逆効果になる可能性があるため避ける
- 初心者・基礎筋力不足の方には向きません。まず伝統的なレジスタンストレーニングから始めてください
- 関節痛・炎症がある場合は必ず医師または専門家に相談してから実施する
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📚 参考文献
- Lentine T, Dawes J. Using Complexes to Help Improve Tactical Job Performance. NSCA TSAC Report Issue 48, 2021.
- May CA, Cipriani D, Lorenz KA. Power Development Through Complex Training for the Division I Collegiate Athlete. Strength Cond J 32(4):30-43, 2010.
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- Carter J, Greenwood M. Complex Training Reexamined: Review and Recommendations to Improve Strength and Power. Strength Cond J 36(2):11-19, 2014.
- Mothersole G, Cronin JB, Harris NK. Jump-Landing Program for Females: Development of a Systematic Progression Model. Strength Cond J 36(4):52-64, 2017.
- Lim JJH, Barley CI. Complex Training for Power Development: Practical Applications for Program Design. Strength Cond J 38(6):33-43, 2016.
- Pagaduan J, Schoenfeld BJ, Pojskić H. Systematic Review and Meta-Analysis on the Effect of Contrast Training on Vertical Jump Performance. Strength Cond J 41(3):63-78, 2019.
- Uysal HS et al. The Effect of Combined Strength Training on Vertical Jump Performance in Young Basketball Players: A Systematic Review and Meta-analysis. Strength Cond J 45(5):554-567, 2023.
- Matthews M, Comfort P. Applying Complex Training Principles to Boxing: A Practical Approach. Strength Cond J 30(5):12-15, 2008.

