傷害予防と競技力向上を科学で支えるコーチが、現場視点で解説します
「どのくらいの強度でトレーニングすればいいの?」という疑問を、たった1回のテストで解決できる方法があります。それが3分間全力運動テスト(3-Minute All-Out Test: 3MT)です。10年以上の研究で積み上げられたこのテストは、アスリートだけでなく、日常的な運動習慣を持ちたい方にも活用できる実践的なツールです。
まず知っておきたい2つのキーワード
3MTを理解するために、2つの概念を押さえましょう。難しそうに聞こえますが、仕組みを知ると「なるほど」と思えます。

CSを「巡航速度の上限」、D’を「スパートに使える燃料タンク」とイメージするとわかりやすいです。3MTでは、この2つを1回のテストで同時に測定できます。
3MTの手順 — 意外とシンプルです
ランニング版を例に、現場での実施手順を説明します。
- 1 ウォームアップ:動的ストレッチを含む15〜20分のジョグ。テスト前は静的回復を挟みましょう
- 2 スタート:「3分間、できる限り全力で走る」とだけ指示。ペースや距離は知らせません(ペーシングを防ぐため)
- 3 計測:GPSウォッチ、ビデオ計時、またはストップウォッチで速度・距離を継続記録します
- 4 CS算出:最後の30秒間の平均速度 = クリティカルスピード(CS)
- 5 D’算出:最初の150秒の平均速度とCSの差にもとづいて計算(D’=150秒 × [S₁₅₀秒 − CS])


測定結果をどう活かす? — HIITへの応用
3MTのデータから、個人に合ったインターバルトレーニング(HIIT)を処方できます。重要なのは「何%のD’を消費するか」という考え方です。

例えばCS=4.0 m/秒、D’=180 mのアスリートが「1,000 mのインターバルを60%D’消費」で走る場合、目標タイムは約223秒(3分43秒)。これをトレーニング処方として用います。速度(距離/時間)は4.5 m/秒となり、これがそのセッションのターゲットペースです。
FITT原則とCS/CPの組み合わせ
エクササイズ処方の基本「FITT原則」に、CS/CPの概念を組み合わせるとより精度の高い処方が可能になります。
| 要素 | 従来の定義 | CS/CPを加えた定義 |
|---|---|---|
| F | 週あたりの回数 | HIIT系は週2〜3回を上限に。オーバーリーチングに要注意 |
| I | 最大値の何%か | CSを超える速度 + D’/W’の消費率(%)で定義 |
| T | 持続時間 | D’の回復も含めた運動と休息の設計(短い休息 = 回復が少ない = より強度が高い) |
| T | 運動様式 | ランニング・自転車・水泳・漕艇で妥当性が確認済み |
タクティカルアスリートや荷物を持って走る人へ
警察官・消防士・自衛官など、装備を身に着けて走る方にも3MTは活用できます。体重比で15〜25%の荷物を持つと、CSが直線的に低下します(D’への影響は小さい)。
荷物を持った場合のCSの調整式
調整後のCS = 元のCS +(−0.0638 × 荷物の体重比%)+ 0.6982
この式を使うと、荷物を持った状態のHIIT処方タイムを事前に計算できます。当社では、タクティカル系のアスリートに対してこの調整を行い、実際のパフォーマンス予測との高い一致度を確認しています。
シャトルランにも使える — チームスポーツへの応用
サッカーやラグビーなどでは、折り返しを含むシャトルランが実践に近い形です。3MTはシャトルラン版でも妥当性が確認されており(25m・50m・70m折り返し)、VO₂maxの予測精度はYo-Yo間欠テストより高いという報告もあります(r=0.90 vs 0.55)。
注意点は、シャトルランのCSは直線ランニングより低くなる点。加速・減速のエネルギー損失があるため、必ずシャトルランで得たCSとD’をシャトルランのHIIT処方に使う必要があります。
注意事項 — 誰でもすぐやっていい? という疑問に答えます

このテストは自己調節的(自分の能力の範囲内で自然に終わる)ですが、日常的に高強度運動をしていない方への急な実施は避けましょう。当社では必ず問診と基礎評価を経てから実施しています。

まとめ
3MTは「3分全力で走るだけ」というシンプルさながら、科学的根拠にもとづいた高精度な個別処方を可能にする画期的なテストです。競技アスリート、タクティカルアスリート、チームスポーツ選手、そして健康増進を目指す一般の方まで、幅広い対象に活用できます。
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参考文献
Pettitt RW, Dicks ND, Kramer M. “Applications of the 3-Min All-Out Exercise Test for Prescribing High-Intensity Interval Training: A Narrative Review on a Decade of Research Progress.” Strength and Conditioning Journal, Vol.47, No.1, pp.45–55. (NSCA JAPAN訳:Volume 33, Number 1, pp.49–59, 2026)

