ケトン食・断続的断食・低炭水化物食——アスリートに「流行りのダイエット」は向いているのか

ケトン食・断続的断食・低炭水化物食——アスリートに「流行りのダイエット」は向いているのか

SNSで話題のダイエット法は、競技選手にそのまま当てはまるわけではない。NSCAジャパン誌に掲載された5本の査読論文を横断的に読み解き、競技種目・フェーズ・性別ごとに「何が適しているか」をS&Cコーチの視点で整理する。

目次

  1. 「流行りのダイエット」とは何か——アスリートが注意すべき構造的な問題
  2. アスリートの栄養ニーズ——一般人とここまで違う
  3. ケトン食(ケトジェニックダイエット)——体脂肪減少には有効、バルクアップには不向き
  4. 断続的断食(IF)——パフォーマンスへの影響は「タイミング管理」で決まる
  5. 低炭水化物食・パレオ——中間的な選択肢の長所と落とし穴
  6. 女性アスリートの「やせ」と健康リスク——日本特有の深刻な現状
  7. 5つのダイエット法:競技種目・目標別の適性マップ
  8. LIME PERFORMANCEの現場から:現実的な食事の5原則
  9. まとめ

01「流行りのダイエット」とは何か——アスリートが注意すべき構造的な問題

「流行りのダイエット」とは、少なくとも1つの重要な食品群を排除し、従来の食事プログラムよりも迅速な結果を約束するダイエット法の総称だ。SNSで話題になり、ルールが「シンプルでわかりやすい」ため広まりやすい。しかし、その「シンプルさ」こそが危険の本質でもある。

流行りのダイエットに共通するパターンとして、穀類・乳製品・赤身肉などの食品群を丸ごと排除すること、体重減少が急速すぎること(グリコーゲン枯渇による水分損失を「体脂肪の減少」と誤認する)、安静時代謝を下げてリバウンドしやすい体を作ること、の3つが挙げられる。

特にアスリートに起きやすいリスクは以下の通りだ。炭水化物不足による活動時エネルギーレベルの低下、鉄・カルシウム・ナトリウムなど微量栄養素の欠乏、断食期間中の糖新生による除脂肪体重の減少、そして脳への炭水化物供給不足による集中力・認知機能の低下がある。なお、脳は炭水化物のみをエネルギー源とし、非アスリートであっても1日最低150gの炭水化物が必要であることは忘れてはならない。

02アスリートの栄養ニーズ——一般人とここまで違う

栄養と食事のアカデミー、国際スポーツ栄養学会(ISSN)が示すアスリート向け推奨量は、一般成人のガイドラインとは大きく異なる。

区分炭水化物タンパク質脂質
一般成人(USDA)46〜65%10〜35%20〜35%
アスリート全般(ISSN)5〜10 g/kg/日1.4〜2.0 g/kg/日30%未満
持久系アスリート6〜10 g/kg/日1.2〜1.4 g/kg/日20〜35%
筋力系アスリート5〜8 g/kg/日1.2〜1.7 g/kg/日20〜35%
高強度トレーニング期6〜10 g/kg/日最大 2.0 g/kg/日20〜35%

体重60kgのアスリートが高強度トレーニング期に必要な炭水化物は1日360〜600g。これは「糖質制限ダイエット」の摂取量(1日50〜130g)の数倍に相当する。アスリートが一般向けのダイエット法をそのまま取り入れると、エネルギー不足状態でトレーニングを継続することになり、パフォーマンス低下・傷害リスク増大・筋量の損失につながる。

03ケトン食——体脂肪減少には有効、バルクアップには不向き

ケトン食とは1日の糖質摂取量を50g未満(総カロリーの10%以下)に制限し、脂質とタンパク質を主なエネルギー源とする食事法だ。肝臓での脂肪酸酸化によってケトン体が生成され、栄養的ケトーシス状態(血中BHB濃度≥0.5 mmol/L)が維持される。

体脂肪の減少

体脂肪の減少については、トレーニング経験の有無にかかわらず、ケトン食が体脂肪量を効果的に減少させることが多くの研究で確認されている。ただし、ほとんどの研究では群間のタンパク質・カロリー摂取量が等しくないという交絡因子が存在し、ケトン食群はカロリー摂取量が少なくタンパク質摂取量が多い傾向にあることに注意が必要だ。

筋肥大・バルクアップへの影響

ここが最も重要な点だ。ケトン食は「バルクアップ(オフシーズンの筋量増加)には適していない」というのが現時点のエビデンスの結論だ。Vargas et al.(2018)の研究では、カロリー過剰条件下でも3群のうちケトン食群だけに体重・除脂肪体重の増加がみられなかった。空腹感の低下と自然発生的なカロリー制限によって、カロリー過剰を維持できなかったと考えられる。

「ケトフル」——導入期の副作用

ケトン食開始後数週間、多くの人が頭痛・便秘・下痢・悪心・疲労感を経験する。これらは総称して「ケトフル」と呼ばれる。副作用の持続期間は数日〜数ヶ月と個人差が大きく、競技会準備期の後期にケトン食を開始することは特に推奨されない。電解質サプリメント・十分な水分・食物繊維の補給でリスクを低減できる。

04断続的断食(IF)——パフォーマンスへの影響は「タイミング管理」で決まる

断続的断食(Intermittent Fasting:IF)には時間制断食(16:8など)、隔日断食(ADF)、5:2ダイエット、ラマダン断食の主要4つの形式がある。非アスリートを対象とした研究では体重・体脂肪の減少効果が確認されているが、アスリートへの影響はまだエビデンスが限られている。

パフォーマンス項目影響条件
無酸素系パフォーマンス◎ほぼ変化なしカロリー充足・睡眠確保が前提
有酸素系(10分未満)◎影響を受けにくい短時間の有酸素運動
有酸素系(長時間)△条件付き脱水・グリコーゲン枯渇・睡眠不足が重なると低下
除脂肪体重✕要注意糖新生でタンパク質が分解→長期は筋量低下リスク

重要な留意点は断食タイミングとサーカディアンリズムの関係だ。パフォーマンスは午後の終わりにピークを迎える傾向があり、食事スケジュールの変化はホルモン分泌・睡眠パターンにも影響する。ラマダン断食を実践するアスリートのデータでは、朝と比較して午後・夕方に無酸素系パフォーマンスが低下することが示されている。

05低炭水化物食・パレオ——中間的な選択肢の長所と落とし穴

超低炭水化物(ケトン食:1日30g未満)と標準的なアスリート食(5〜10g/kg/日)の中間に位置するのが低炭水化物食(炭水化物20〜40%)やパレオダイエットだ。

パレオダイエット

炭水化物の割合を約23%に制限し(アスリート版では試合前後に40%まで引き上げる例外あり)、動物性タンパク質を強調しつつ穀類・乳製品・豆類を排除する。炎症の低下や認知機能の向上が潜在的なメリットとして挙げられるが、穀類・乳製品のカットによるカルシウム・繊維の不足、および高コストが実践上の課題だ。

グルテンフリーダイエット

セリアック病の治療のために開発された医学的食事療法であり、セリアック病と診断されていないアスリートには基本的に推奨されない。グルテンフリー食品の選択肢は限られており、必要な炭水化物量を確保することが難しく、全粒粉由来の栄養素(ビタミンB・鉄・食物繊維)が不足するリスクがある。

06女性アスリートの「やせ」と健康リスク——日本特有の深刻な現状

日本では成人女性の約1割がやせ(BMI<18.5)に分類され、これは先進国の中で最も高い割合だ。20代女性は平均BMIがすでに20.7とスリムな体形であるにもかかわらず、さらに細い体形を理想としている。SNSの普及により、他者との比較が以前より起きやすくなっていることも影響している。

食事制限ダイエットが引き起こす健康リスク

食事制限による体重減少では除脂肪体重の減少だけでなく、エネルギー節約機構の働きによって基礎代謝量(BMR)が抑制される。1週間の減食(−50%)で基礎代謝量が1日200kcal以上低下することが確認されており、この低下はリバウンドの主要因になる。

月経維持のためには体脂肪率22%以上が最低限必要とされ、17%を下回ると月経が停止するリスクがある。視床下部の機能障害と低エストロゲン状態は骨量減少の危険因子にもなり、若年期のやせが中高年の骨減少症リスクを4倍に高めるという縦断研究も報告されている。

また、20代女性ではカルシウム(実摂取量408mg vs 推奨量650mg)と鉄(実摂取量6.8mg vs 推奨量10.5mg)がいずれも推定平均必要量を下回っており、50%以上の女性が不足リスクにあると推察される。

075つのダイエット法:競技種目・目標別の適性マップ

食事法体脂肪↓筋量↑持久系筋力系実践難度
パレオ
グルテンフリー
断続的断食(IF)
低炭水化物食
ケトン食

◎ 適している △ 条件付き ✕ 不向き(現時点のエビデンスに基づく)

グルテンフリーについては、セリアック病・グルテン過敏症がない場合はパフォーマンスにメリットがない。体重制限競技(柔道・ボクシングなど)においてはIF・低炭水化物食が試合前の体重調整に活用できる可能性があるが、試合・高強度練習の前後の栄養補給を確保したうえで実施することが絶対条件だ。

08LIME PERFORMANCEの現場から:現実的な食事の5原則

流行りのダイエットが魅力的に見える理由のひとつは「ルールがシンプル」だからだ。しかしアスリートに必要なのは、シンプルさよりも「自分の競技・フェーズ・体重に基づいた個別化」だ。以下の5原則は、どの競技種目・どのフェーズにも共通して適用できる基盤となる。

09まとめ

5本の論文が共通して示すのは「一律に正解のダイエットは存在しない」という事実だ。競技種目・トレーニングフェーズ・性別・個人の代謝特性によって、最適な食事戦略は異なる。

ケトン食・断続的断食・低炭水化物食はいずれも体脂肪の減少に有効な可能性があるが、筋肥大・高強度競技・女性の月経維持においてはリスクが存在する。流行りのダイエットを「試してみよう」と思う前に、自分の競技特性・現在のフェーズ・健康状態を踏まえて判断することが不可欠だ。

最後に、科学的根拠に基づいた食事選択は「知識で選ぶ」ことを可能にする。禁止・制限よりも理解が先だ。その理解を積み重ねることが、長期的なパフォーマンス向上の土台になる。

科学的根拠に基づくS&C指導

LIME PERFORMANCEは、CSCS・NSCAマスターコーチを保有するS&Cコーチが主宰する専門組織です。大学スポーツ・実業団・日本男子卓球ナショナルチームへの指導を通じて、証拠基盤型のトレーニング・栄養指導を実践しています。
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参考文献(NSCAジャパン誌掲載論文)
Poppleton A. Analysis of “Fad Diets” and Alternatives for Optimal Athletic Performance. NSCA COACH Vol.3, Issue 3, 2021.
Tzur A, Roberts BM. The Ketogenic Diet for Bodybuilders and Physique Athletes. Strength and Conditioning Journal 42(5): 108-115, 2021.
永井成美. 女性のやせと健康への影響:どのような栄養と運動が望ましいのか. NSCAジャパン誌 Vol.28, No.5: 10-17, 2021.
Ayesta A. Intermittent Fasting – An Update on Its Effects on Athletic Performance. NSCA COACH Vol.3, Issue 2, 2020.
Wein D, Bustamante E. How Low Can You Go? Considerations for Low-Carbohydrate Diets. NSCA COACH Vol.2, Issue 4, 2020.