「いつ食べ、いつ動き、いつ寝るか」
時間を味方につける栄養戦略
何を食べるか——それは重要だ。しかし「いつ食べるか」「いつ運動するか」「いつ寝るか」もパフォーマンスを左右する。体内時計(概日リズム)は代謝・免疫・ホルモン分泌を24時間周期で制御し、遠征による時差もサプリメントの使いどころも、このリズムと深く連動している。3本の文献を統合し、現場で使えるエビデンスを整理する。
Part 1 — 体内時計
体内時計の仕組み:指揮者と楽器のハーモニー
体内時計(概日リズム)を動かすのは「時計遺伝子」だ。2017年にノーベル医学生理学賞を受賞したこの発見は、脳の視交叉上核(主時計)だけでなく、肝臓・膵臓・肺・骨格筋などすべての細胞に時計機構が備わることを示した。
主時計が指揮者、末梢時計が楽器——この比喩は機能的に正確だ。指揮者(脳)は朝の光で前進し、楽器(各臓器)は朝食や朝の運動で個別にリセットされる。逆に、夜の光・夜食・夜間運動はいずれも体内時計を後退させ夜型化を促す。

Time × Nutrition
「いつ食べるか」が代謝を変える:時間栄養学
エネルギー代謝の時間依存性
同じ食事内容でも、夕食・夜食では血糖値が高く、回復に時間がかかる。夜遅い高デンプン食は睡眠中まで高血糖が続き、脂肪に変換されやすい。朝700kcal・昼500kcal・夕200kcalの朝重点型は、夕重点型より体重・胴回りが低下するという研究がある(Jakubowicz et al.)。
タンパク質代謝の時間依存性
日本の栄養調査によると、朝食のタンパク質摂取は夕食の半分程度。しかし、朝にタンパク質を多く摂る高齢者は筋量が多く握力が大きかった。夜間はオートファジー(分解系)が進み、朝食タンパク質摂取で合成系に急転する——この非対称性が重要だ。就寝30分前のカゼインタンパク30〜40gは終夜の筋タンパク質合成率を高める。

Time × Exercise
「いつ運動するか」でパフォーマンスが変わる
一般に運動能力は午前中に低く、ピーク時は午後遅い時間帯にある。この日内変動は体温の変化と密接に連関している。夜型の人ほど朝のパフォーマンスが極端に低く、朝型の人は1日を通じて変動が小さい。

Immunity × Clock
免疫も体内時計が支配する
IgA(粘膜免疫)は朝6時ごろに最高値を示し、その後急低下。ウイルスは早朝に感染力が高まる時間帯がある。インフルエンザワクチンは午前9〜11時接種のほうが午後15〜17時より抗体価が高いことが示されている(Long et al.)。生活リズムを整えることは、ウイルス感染防御にも直結する。
Part 2 — 遠征管理
遠征による疲労の正体と対策:時差ボケを科学する
長距離遠征が避けられない現代スポーツ。時差ボケ(非同期症候群)は、体内時計と外部環境のズレから生じる。東への移動(時計を進める必要)は西への移動より調整が難しく、症状が長引く。体内時計の再同期は1日につき約1時間帯分しか行えない。

睡眠障害がパフォーマンスに及ぼす影響
睡眠障害30時間で筋グリコーゲンが低下し間欠スプリントのパフォーマンスが低下(Skein et al.)。24時間フライトシミュレーション後のYo-Yoテストにも悪影響(Fowler et al.)。一方、バスケットボール選手の睡眠時間延長(507分)では、精神的安定・疲労低下・スプリント向上・フリースロー精度向上が確認された(Mah et al.)。30分以内の仮眠は睡眠慣性が起きにくく、認知パフォーマンスを回復させる最も効果的な方法(カフェイン・光浴び・洗顔より有効)。

Part 3 — エビデンスに基づく栄養戦略
パフォーマンスを高めるための栄養:現場で使える数字
ダイエット・体組成の原則
ISSNは、低脂質・低炭水化物・ケトジェニックの各ダイエットは体組成の改善に同様に効果的と結論。どれが優れているかよりも、継続可能かどうかが重要だ。体重減少の速度が遅いほど筋量(除脂肪量)を保持しやすい。

水分補給の基準
体重の2%の脱水で筋力が有意に低下。運動20分ごとに約270ccを目安に。60〜90分以上の運動ではナトリウム460〜690mg・炭水化物6〜8%のスポーツドリンクが有効。それ未満なら水で十分なことが多い。
カフェイン
競技60分前に体重1kgあたり3〜9mgが標準。精神的覚醒・代謝増加・疲労知覚の減少が摂取後4時間持続。ただし個人差が非常に大きく、薬物として扱う必要がある。遠征中はメラトニン分泌を3時間遅らせるため摂取を控えることが推奨される。
クレアチンモノハイドレート
ローディング法(20g/日×5〜7日→維持5g/日)または低用量持続法(3〜5g/日×28日)。持続時間3分以内の運動パフォーマンスに有効。ベンチプレスで平均5.3%、スクワットで8%の力発揮向上(Lanhers et al.)。腎機能への悪影響は腎臓疾患のない者では5年間で確認されていない。

Summary
3つの視点を統合した実践指針

競技特性・遠征スケジュールに合わせた個別栄養・S&C戦略
LIME PERFORMANCEでは、シーズン設計からトレーニング・栄養の統合計画まで、エビデンスに基づくサポートを提供しています。
参考文献 / References 柴田重信 Ph.D. (2021). 体内時計と食事・運動の関係性について. NSCA Japan Vol.28 No.1 pp.16-23.
Williams B, Clarke R, Aspe R, Cole M, Hughes J. (2021). 遠征の際のパフォーマンス管理. NSCA Japan Vol.28 No.2 pp.65-70.
Schroeder N, PT, DPT, CSCS. (2023). 身体パフォーマンスを強化するためのエビデンスに基づく栄養戦略. NSCA Japan Vol.30 No.1 pp.57-67.

