肩が痛くてもスクワットを諦めない|ハットフィールドスクワットの正しいやり方

肩が痛くてもスクワットを諦めない|ハットフィールドスクワットの正しいやり方

肩の可動域制限や既往歴があってもスクワットトレーニングを継続したい方へ。セーフティスクワットバーを使った「ハットフィールドスクワット」の特徴、従来のスクワットとの違い、正しいフォーム、現場での指導方法をLIME PERFORMANCEのコーチが解説します。
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スクワットをしたいのに、肩が痛くてバーを担げない——その悩み、実は多いです

「スクワットは下半身トレーニングの王様」とよく言われますが、現場でトレーニング指導をしていると、実際にはこんな相談を頻繁に受けます。

「ベンチプレスの後から肩が痛くて、バーベルを担ぐ姿勢が取れない」 「肩関節を手術していて、腕を外に開く動きがつらい」 「デスクワークで巻き肩がひどく、バーを担ぐと腰が丸まってしまう」

こうした方に「じゃあスクワットはお休みしましょう」と伝えるのは、実はもったいない選択です。下半身のトレーニングを止めてしまうと、筋力低下だけでなく、日常生活の動作能力(立つ・歩く・階段を上る)まで落ちてしまうことがあるからです。

このような肩に不安のある方でも下半身をしっかり鍛えられる種目として、今回は「ハットフィールドスクワット」をご紹介します。


ハットフィールドスクワットとは?

ハットフィールドスクワットは、パワーリフティング界のレジェンドであるフレッド・ハットフィールド氏が考案したスクワットのバリエーションです。専用の「セーフティスクワットバー(SSBバー)」という、両端が前方にカーブした特殊なバーを肩に乗せて行います。

最大の特徴は、手をバーの持ち手ではなく、スクワットラック本体を握って行うという点です。両足で立ちながら両手でラックを支えるため、いわば「2点支持」から「4点支持」のスクワットになります。この支持点の多さが、通常のバーベルスクワットにはない安定感を生み出します。

もともとは「肩を痛めていてもスクワットを続けたい」というアスリートのニーズから生まれたエクササイズですが、現在ではリハビリ目的だけでなく、フォーム改善や体幹トレーニングの一環として、健康な方のプログラムにも幅広く取り入れられています。


通常のバックスクワットと何が違うのか

一般的なバーベルバックスクワットでは、バーを担ぐ際にどうしても肩関節を外側にひねる(外旋させる)姿勢が必要になります。肩に既往歴がある方にとって、この姿勢自体が痛みの原因になることが少なくありません。

ハットフィールドスクワットで使うセーフティスクワットバーは、前方にハンドルが出ている構造になっているため、肩を外旋させずにバーを保持できます。これだけで、肩への負担は大きく変わります。

またフォーム面でも違いがあります。通常のバックスクワットは股関節をしっかり折りたたみ、上体を前傾させる動きが自然な形ですが、ハットフィールドスクワットは両手でラックを支えながら行うため、上体をより垂直に近い状態で保ちやすいのが特徴です。上体が起きることで、太もも前面(大腿四頭筋)への負荷が高まりやすく、フロントスクワットに近い刺激が得られます。腰への負担も少なくなるため、腰痛持ちの方にもメリットがあります。


ハットフィールドスクワットの3つのメリット

① 肩に不安があってもスクワットを継続できる
バーを外旋させて担ぐ必要がないため、肩関節の可動域制限や術後のリハビリ期にある方でも、下半身トレーニングを止めずに済みます。

② セルフスポッティングができる
ラックを両手で支えているため、万が一きつくなった場面でも自分自身の腕の力で体を支えやすく、補助者がいない状況でも比較的安全にトレーニングできます。

③ 太もも前面と体幹の安定筋群を効率よく使える
上体を起こした姿勢を保つ必要があるため、大腿四頭筋への刺激に加え、腹部や脊柱起立筋などの体幹安定筋群も同時に働きます。オリンピックリフティング(クリーンやスナッチ)のスタートポジションに近い姿勢を作れるため、ウエイトリフティング選手のフォーム作りにも応用できます。


【LIME PERFORMANCE現場ノウハウ】
手の位置は3パターンを使い分ける

ここが現場での指導の腕の見せどころです。ハットフィールドスクワットは「ラックを握る」というイメージが強いですが、実際には手の位置によって狙える効果が変わります。LIME PERFORMANCEでは、クライアントの状態に応じて主に3つのグリップパターンを使い分けています。

パターン1:ラックを押して支える
上背部が丸まりやすい方向け。ラックを軽く前方に押すことで、胸が開き、直立姿勢を保ちやすくなります。姿勢改善を狙いたい初心者に最初にお伝えするパターンです。

パターン2:体の正面(ハーネス・パッド部分)を保持する
最も安定感が出るパターン。両手を胸の前で固定するため、バランスを崩しやすい方や、高重量を扱う場面での安全確保に向いています。

パターン3:大腿部に手を添える
補助を最小限にしたいパターン。ラックにほとんど頼らず、自力でバランスを取る力を養いたい中〜上級者や、フォームの完成度を高めたい競技者向けです。

このように、「どのグリップを使うか」自体が難易度調整の手段になります。初心者にはパターン1から始めてもらい、安定してきたらパターン3へ移行する、という段階づけが基本です。


プログラムへの組み込み方(ピリオダイゼーションの考え方)

ハットフィールドスクワットは万能種目ではなく、あくまで「目的に応じて使う道具のひとつ」として捉えることが大切です。LIME PERFORMANCEでは、クライアントのフェーズに応じて以下のように位置づけています。

フェーズ主な目的頻度の目安グリップの使い分け
導入期(術後・不安期)痛みなく可動域を取り戻す、動作パターンの再学習週2回程度パターン2(ハーネス保持)中心
基礎構築期大腿四頭筋・体幹の筋力強化週1〜2回パターン1→パターン3へ段階移行
実践期(競技復帰・上級者)高重量への挑戦、フォームの精度向上週1回程度パターン3中心、必要に応じて上半身を積極的に使う過負荷トレーニングを限定的に導入

ポイントは、上半身の力を使って重量を扱う「過負荷トレーニング」は便利な反面、上腕二頭筋や三頭筋への過度な負担につながるリスクも指摘されています。毎回のトレーニングで多用するのではなく、狙いを持って計画的に、頻度を絞って取り入れることが重要です。


活用事例

実際の現場での活用例を3つご紹介します。

  • 術後リハビリ中のアスリート:肩の手術後、通常のバックスクワットが行えない期間に導入。パターン2(ハーネス保持)を基本とし、痛みのない範囲で可動域を少しずつ拡大しながら、下半身の筋力低下を最小限に抑えます。
  • プラトーを感じていた上級者:長年バックスクワットを続けて記録が頭打ちになっていた方に対し、体幹をより直立させるハットフィールドスクワットを導入。大腿四頭筋への刺激が変わったことで、フォームの見直しと合わせて記録更新につながります。
  • QOL向上を目指す一般クライアント:腰痛持ちで、しゃがむ動作に不安を感じていた方に導入。ラックを支えにできる安心感から動作への恐怖心が減り、日常生活での立ち座り動作がスムーズになります。

まとめ

ハットフィールドスクワットは、「肩が心配だからスクワットを諦める」という選択をしなくて済むようにしてくれるエクササイズです。ただし、正しいグリップの選び方や負荷のかけ方を誤ると、かえって上半身の傷害リスクを高めてしまう可能性もあります。

LIME PERFORMANCEでは、一人ひとりの身体の状態や目標に合わせて、こうした種目の選定からグリップの使い分け、ピリオダイゼーションの設計までをトータルでサポートしています。肩の不安を抱えながらトレーニングを続けたい方、記録の停滞を感じている競技者の方は、ぜひ一度ご相談ください。


参考文献 Metzger R, Hatfield D, Dinyer-McNeely T, Dawes J. The Hatfield Squat. Strength and Conditioning Journal 47(4): 490-493, 2025.(NSCA JAPAN Volume 33, Number 6, pages 75-78 掲載)