アイソメトリックトレーニングは「押す」と「耐える」で効果が違う?現場での使い分けと6週間の進め方

アイソメトリックトレーニングは「押す」と「耐える」で効果が違う?現場での使い分けと6週間の進め方

はじめに:「動かさないトレーニング」に2種類あることをご存じですか?

壁に背中をつけて膝を曲げたまま止まる。重りを持ったまま姿勢を保つ。関節を動かさずに力を出すアイソメトリックトレーニングは、ケガの痛みを避けながら行えることから、競技現場でもリハビリでも広く使われています。

ただ、同じ「動かさない」でも、力の出し方には大きく2つのタイプがあります。

  • 押すタイプ:動かない物に向かって力を出し続ける(例:バーがピンに当たって動かないラックに向かって押す)
  • 耐えるタイプ:外から加わる重さに負けないよう、姿勢を保ち続ける(例:ウォールシットや、重りを持ったスプリットスクワットの静止)

見た目はどちらも「止まっている」ので、これまでは同じものとして扱われがちでした。シンガポールの研究グループが、この2つを同じ条件で比べた研究を2026年に発表しています。本コラムでは、その内容を現場目線で整理します。

研究で行われたこと(ざっくり版)

対象は、レジスタンストレーニング経験のない健康な成人10名(男女5名ずつ)です。片脚は「押す」、もう片脚は「耐える」を6週間(週2回、全12回)行い、脚ごとの変化を比べました。

  • 膝を80度に曲げた姿勢で実施(0度が完全伸展)
  • 強度は、その人の最大筋力の約70%
  • 1回20秒を、最初は4本、2週ごとに1本ずつ増やして最終的に6本
  • 本数の間の休憩は1分、トレーニング間は最低2日あける

つまり、強度・時間・本数を揃えて、力の出し方だけを変えた比較です。

わかったこと

① どちらでも、筋力は伸びた。
最大筋力(静止した状態)は、どちらの脚でも約15〜18%向上しました。動かしながらの筋力も、両方の脚で有意に向上しています。

② 動かす筋力は「押す」がやや大きい傾向。
短縮しながら発揮する力は「押す」で約15%、「耐える」で約10%の向上でした。ただし、この差は統計的には有意ではなく、あくまで傾向です。

③ 筋肉の太さは「耐える」がやや優勢。
太もも前面の4つの筋肉の厚みを合計すると、「耐える」の方が有意に大きく増えました。特に、股関節と膝をまたぐ大腿直筋で差が目立ちました。

④ 筋肉の並び方にも変化。
どちらの脚でも、筋線維の長さや角度にわずかな変化が見られました。

ここで大切な注意点です。この研究は10人・6週間・未経験者・膝の伸展だけという条件です。論文の著者自身も「結果を一般化しないように」と述べています。「押すが上、耐えるが上」と結論づけるものではなく、使い分けを考える手がかりとして受け取るのが適切です。

現場での使い分け

研究結果と、当社の現場感覚をあわせた使い分けの目安です。

目的優先したい型理由
最大筋力・スポーツ動作への転換押す動かす筋力への伸びが大きい傾向
筋肉量を増やしたい耐える筋厚の増加が大きい傾向
痛みがある時期の刺激維持どちらも可(痛みの出ない角度で)関節を動かさず強度を調整できる
動作の安定・姿勢保持力耐える姿勢を崩さない力が必要な種目

※この表は当社の実践上の整理であり、論文の表ではありません。

指導のうえでの大きな違いは、「押す」は力を出す量を選手の感覚に任せやすく、「耐える」は負荷が外から決まるため、姿勢の崩れを見抜く目が必要という点です。

現場での指導ポイント

「押す」を指導するとき

  • 最初の2秒でゆっくり力を立ち上げる。いきなり全力で押さない
  • 関節の角度を毎回そろえる(記録に残す)
  • 「今日の力は何割か」を声かけで確認する。感覚だけだと日によってブレる

「耐える」を指導するとき

  • 膝が内に入る、腰が反る、といった姿勢の崩れがないかを最優先で確認する
  • 角度の許容範囲を決めておく(研究では設定角度から5度以内を目安にしていました)
  • 崩れたらその時点で終了。粘りすぎない

共通の注意点

  • 息を止め続けない。呼吸を続けたまま行う
  • 血圧に不安のある方、痛みのある方は、医師や専門家の確認をとってから
  • 最大筋力の測定ができない環境では、無理に「70%」を狙わず、「あと2〜3本できる余裕を残す強さ」から始める

6週間の進め方(例)

研究のプログラムを、一般的な環境に置きかえた例です。

  • 週2回(間を2日以上あける)
  • 1本20秒、強度は「きついが姿勢は崩れない」程度
  • 1〜2週目:4本 → 3〜4週目:5本 → 5〜6週目:6本
  • 本数の間は1分休む
  • 1回の合計は80〜120秒。これは論文が参考にした筋肥大向けの目安(3〜30秒×合計80〜150秒)の範囲内です

当社の設計案:ピリオダイゼーションへの落とし込み

論文が検証したのは6週間のみです。長期の計画は、当社では次のように考えます。

  1. 土台づくり期(6週間):耐えるタイプ中心。筋肉量と姿勢保持力をつくる
  2. 筋力発揮期(6週間):押すタイプを加え、スクワットなど動かす種目と組み合わせる
  3. 試合期・維持期:押すタイプを短時間・少ない本数で残し、疲労をためずに筋力を保つ

※この流れは論文の結果ではなく、当社の指導上の仮説です。選手の競技特性・時期・既往歴によって調整します。

LIME PERFORMANCEでの実践例

当社では、次のような流れで導入することを想定しています。

  • 評価:膝の角度ごとの力の出しやすさ、左右差、姿勢の崩れを確認する
  • 選択:目的(筋力・筋量・復帰期)に合わせて、押す/耐えるを選ぶ
  • 管理:角度・秒数・本数を記録し、毎回の再現性を確保する
  • 接続:静止の種目でつくった力を、スクワットやジャンプなど動く種目へつなぐ

一般の方であれば、階段や立ち上がりが楽になることを目標に、痛みが出ない範囲で「耐える」から始めるケースが多くなると考えています。競技者では、シーズンの時期に合わせて両タイプを使い分けます。

まとめ

  • アイソメトリックには「押す」と「耐える」がある
  • 6週間の比較では、どちらでも筋力は向上した
  • 動かす筋力は「押す」、筋肉の太さは「耐える」がやや優勢な傾向(ただし小規模研究)
  • 現場では、目的・時期・体の状態で使い分ける
  • 安全のため、姿勢と呼吸のチェックを欠かさない

「自分にはどちらが合うのか」「ケガ明けでどう始めればいいか」といったご相談は、LIME PERFORMANCEで承っています。目的と現在の状態をうかがったうえで、安全で効果的なメニューをご提案します。

参考文献
Lum D, Oranchuk DJ, Chen SE, Kong PW. Comparing the effects of push and hold isometric training on strength and musculotendinous adaptations: A within-subject randomized controlled trial. J Strength Cond Res 40(9): 1050–1058, 2026.